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[ 相手方の協議を受けて賛助した事件]
労働相談会にてA社の従業員アさんから、不当な解雇をされた相談を受け、労働基準監督署 への申告をアドバイスし、労働局のあっせんの説明を行い、解雇法理について一般的な説明を 行った。数日後、A社社長が相談に来て、解雇した従業員の問題で労働基準監督署から連絡 が来た、労働局からあっせんに参加するかしないかの通知も届いているという。 倫理的な見解→ A社の相談を受けてはならない。利益相反と気づいた時点で状況を話してお 断りする。A社の相談内容が既に事件に触れているのであれば、アさんの事件を受任してはい けない。 [ 相手方の協議を受けて賛助した事件] 友人と酒を飲んでいるとき、その息子が解雇されそうだという話を聞いた。酔いが廻っていて、 また友人もそれほど深刻そうな話し振りでもなかったので、ただそうかと聞くだけであった。その 後顧問先から解雇事件を頼まれたが、相手方は友人の息子だとわかった。 倫理的な見解→ 雑談的に聞いただけで、「協議を受けた」とはいえないので、受任してもよい。 しかし、できれば避けることが望ましい。 *「賛助」とは、協議を受けた事件について、相談者が希望する一定の結論や利益を擁護する ための法律的見解・法律的解決手段を教示することをいう。 [ 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度および方法が信頼関係に基づくと認められ るもの] ホームページを見て知ったというAから相談に乗ってもらいたいという連絡があり、面談した。A は、解雇した相手が許せないので1億円の慰謝料を請求したいと主張しているが、その請求額 が到底認められないので請求できないと回答し、事実関係を全く聞かずに受任を断わった。後 日、Aからのあっせん申請を受けたB社から、代理人になってくれと頼まれた。 倫理的な見解→ 事実関係すら確認していない状態なので、信頼関係に基づくとまでは認めら れないため、B社の依頼を受けることができる。
*単に「協議を受けた」だけのものについて、相手方の代理は可能という点が大切。協議を受け
ただけで相手方の代理ができないとなれば、(信頼関係のない)狡猾な者が、相手方の代理人 になりうる者に対し、所謂「封じ込め」「ツバ付け」を画策して代理人になれなくしてしまうことが まかりとおることになるため。 [ 受任している事件の相手方の依頼による他の事件] A社から解雇事件を受任している特定社会保険労務士がアさんのところに和解交渉に行った。 交渉は成立し、和解書作成とあっせん期日での調印の話をした。その後アさんから知人のイさ んの未払い給与の問題の相談を受けた。 倫理的見解→ 「相手方」とは受任依頼する者で足り、事件の当事者である必要は無い。 イさ んの事件を受任するには、A社とアさんの事件が完全に終了するか、A社の同意が必要。な お、完全に終了したときに受任する場合でも、A社から手抜きをしたのではないかと疑われか ねないため、報告は必要。 *狡猾な相手方は、新たな事件を依頼することによって、現に処理中の事件を自己の有利に解 決しようと画策する。 [ 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件] 特定社会保険労務士は顧問先A社を退社したアさんが興したB社の顧問にもなった。アさんは 退職金をめぐってA社に対してあっせん申請をし、代理人になって欲しいと依頼した。A社との 顧問契約(月額3万)を解除し、その分B社から顧問料を月額3万から8万円に上げるともいう。 倫理的見解→ 顧問契約解除により、利害衝突はなくなる。しかし、A社の経営等相当深く関与 していた場合には、契約解除をすれば足りるとするわけにはいかない。解除もしくは関係する 顧問先を相手方とする事件は一切避けるべきである。
(『法曹倫理講義』高中正彦・民亊法務研究会 を参照した)
◎ 代理人倫理については実際複雑な絡みもあることから、以上はあくまでも模範的な見解と なる。また訴訟を前提とした弁護士の職業倫理をそのままあっせんや調停を前提とする特定社 会保険労務士に持ってくるにはちょっと無理も感ずる。 =想定できうるケース=
労務管理の不備な会社で、その不備ゆえに退職トラブルが生じ、その申請人労働者の代理人
としてあっせんを行った。退職について和解決着し、それと同時に会社の顧問となった。これ は、申請人は退職の手続きに不安であり、被申請人も実務がままならないという環境がある
ことにより、顧問としてきちんと退職手続きを履行し双方を満足させるという理由である。
社会保険労務士法第22条第2項第3号但し書きに相当する事例である。もちろん、このケース
は、申請人の利益を害した行為つまり不当にその地位を利用した行為すなわち代理人としての
信頼性を損なった行為とならないよう細心の注意を払う必要がある。
※ 社会保険労務士が関わる企業もしくは労働者、被保険者、いや社会保険労務士が関わら
なくとも、それらは違法行為をたいてい含んでいる。弁護士が刑事被疑者について弁護活動す るにあたっての相当の合理的根拠による理論立てが、社会保険労務士にも相当必要である。
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